ぼうけんのしょ

日々冒険。

一生忘れない日

兵庫県西宮市で叔母の葬儀を終えた私は阪急電車に乗り梅田へ向かった。チケットを確保しながら前日埼玉を離れ運命の一戦をHUB梅田茶屋店にて観戦することにした。

HUBを利用するのは初めてだったがたまたまなのかサッカーファンが多いのか試合開始前から混み合っているように感じた。浦和のユニを着ている人もいて、そのひとりひとりに「ちょっと聞いてくださいよ」と言いたいのを堪え端っこの壁際に陣取った。

威風堂々を小声で歌う。コレオで泣きそうになるのを堪える。いよいよ始まる。

開始15分くらいそのまま観ていたが寂しくなり思い切って立ち見のテーブルに入らせてもらった。黄色ユニの22番を着た彼は快く受け入れてくれた。

前半はスコアレスのまま終わり、初めて黄ユニの彼が話しかけてくる。待ってましたとばかりに「ちょっと聞いてくださいよ」と返す。

彼の話も聞いた。転職で今日鴻巣から大阪に来たばかりなのだという。友達もまだ彼しかいないんです、と紹介された男はシェフチェンコ似のイケメン外国人だった。シェフチェンコは神戸サポらしいが浦和の中ではウガジンヒジョウニミニクイ、じゃなくてウガジンヒジョウニスバラシイと。周りが異を唱える中「お目が高い」とサムズアップで返した。

「今日どうしてマウリシオ出てないんですか?」と訊いてきたのはゲーフラを持った鹿島サポのお姉さん。姫路在住ながら鹿島へ通い続けてるらしい。「鹿島優勝ですね」と声をかけると「そんな油断はしません!」と。ガチの人だった。

バラバラで来た数人がなんとなく談笑しながらハーフタイムを過ごし後半戦へ。

後半も半ばを過ぎた頃には身動きが取れないほど混み合ってきた。酒も空だが動かないし視線も動かせない。時間が経つにピッチ内の意思統一が重要になる試合展開。

だが運命の瞬間が訪れる。ラファエル・シルバの先制ゴール。店内は歓喜に包まれ、またも泣きそうになる、が堪える。まだ終わってない「最後締めろ!」と叫ぶ。

そしてタイムアップの笛。机に突っ伏しそのまま今度こそ泣くのを堪えなかった。当然嬉しい、でもそれだけじゃない。ここ数日のバタバタで溜まっていた感情が爆発したかのように大泣きした。周りが一瞬「え」となった雰囲気は察したがすぐにみんなが肩を叩いて讃えてくれた。隣で一番大きな声を挙げて応援していたスーツの兄さんは「良かったなぁ」「おめでとう」と何度も言ってくれて、どこか他人事のような言い方だと思ってたら「俺はガンバサポやけど」と言い出して周囲が騒然とした。一番声を挙げていた浦和サポだと思われた男性はただの元気な関西人だったのだ。そのテーブルに集まった関東人たちは「なんでやねん」とは言わなかった。

涙は放送がのどじまんに切り替わると同時にさっと引き、シェフチェンコ氏が「感動した」とビールを奢ってくれた。その後は再びテーブルにいた人たちで談笑が始まる。

2007年の浦和が最高、暢久、達也、坪井切ったのありえない、ミシャ嫌い、という典型的なハエヌキガーさんもいた。「鹿島でいうと小笠原を切るようなものだ」という発言に「ベテランを切った先のビジョンがクラブにあるかどうか」と返す鹿島サポさんはやはりガチだった。

その後はその鹿島サポさんと便は違うものの同じく高速バスで東京駅に向かうということで発着場まで同行させてもらった。

試合中は応援してくれてたけど、歩いてる途中に何度も「悔しい」と漏らしていた。鹿島サポのACLにかける想いが伝わる。

そして「悔しいですよね」と。「今日の試合チケット持ってるのに観られないなんて」「自分だったら身内との縁を切っても試合を優先してしまうかも」と。

その言葉だけで、ここ数日間の葛藤が異常なものではないと言われてる気がして救われたし、もうスタジアムに行けなかった無念は晴れていた。もちろん勝ったからというのは、ある。そしてそれ以上に、心は本当に本当に埼スタにあった。

嫁さんは俺のユニを着てスタジアムに行ってくれたし、多くの仲間がこんな大事な試合にも関わらず、俺のことを思って応援に力を入れてくれた。「心は埼スタに!」なんて言葉では足りないくらい、自分は埼スタにいたんだと思う。きっと何年かして振り返る時に素で現地観戦だったよ、と言い出しそうなくらい。

連れて行ってくれた仲間たちには感謝しかありません。

鹿島サポの姉さんとは今日のお礼に明日だけは鹿島を応援することを約束して別れた。

もし自分が逆の立場なら他クラブを応援するどころか興味すら失うし「俺らの分も頑張れ」と言われるよりは「悔しいから負けちまえ」と言われる方がしっくりくる方だったが、直に応援されれば嬉しいし、ありがたいと思った。

高速バスでの7時間もほぼ眠ることなく、ひたすら勝利の余韻に浸っていた。

スタジアムで歴史の目撃者になることは叶わなかったけど、素敵な仲間たちに会えたし、自分にはこんなに仲間がいたんだと感じさせられた。

そして、自分でもわかってなかった浦和レッズに対する気持ちに気付かされた。

スタジアムでは経験できないことをたくさん経験した今日のことは一生忘れないだろう。

最後に、もう一度、仲間たちに感謝します。

ありがとうございました。